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晩御飯は米ともやしの味噌汁と、油揚げともやしの炒めものだった。給料日前の定番だ。
いつもなら、質素過ぎるだろもやしばっか使いやがって、と文句を言いながら食べるが、今日は美味しくいただいた。
このウキウキを自分だけにとどめてはおけない。
僕はもう2年も使い込んだケータイから「池畑裕二」の名前を探して、通話ボタンを押した。
いつもなら5コール以上しても相手が電話に出ないと切る僕だけど、今日は鳴らし続けた。何なら、もし留守録に切り替えられても「折り返し電話くれ」と伝言を残してやろうという気分だった。
裕二は9コール目でようやく出た。男にしては高すぎる声が鼓膜を揺らす。
「何だよ。俺今ニコ動見るのに忙しいんだよ。」
ネットの動画を見るのに忙しいなんて言ってるようじゃ、裕二にはまだ春は来ないだろう。
僕は小学校以来の親友に、僕の恋愛においての快挙を伝えた。
電話越しで、カタッという小さな音がした。恐らくカップラーメンの割り箸を落とした音だろう。それ位僕は、モテない仲間の彼に衝撃を与えてしまったらしい。
「嘘だと言ってくれー!」
裕二の叫び声が心地良い。優越感というものに初めて浸った。
僕も裕二も、昔からとにかくモテなかった。特別顔が悪い訳では無いし、性格に難がある訳でもない。女友達だっていた。
しかし、小学校中学校とバレンタインに本命チョコを貰った経験は無く、告白された事も勿論無く、告白してもその恋心は儚く散った。
女友達に理由を聞けば、どうやら僕らには男の色気が足りないらしい。しかし色気とは滲み出てくるものだからどうしようもないとも言われた。絶望的じゃないか。
僕らは高校に入ったらブイブイ言わせようと誓い合い、別々の学校へと入学した。なのに3年間2人して恋はエンストを起こした状態だったのだ。
先にエンジンがかかった事を誇りに思いながら、僕はソファーベッドにふんぞり返った。そんな僕を透視でもしたのか、裕二は恨めしく文句を続けたが、突然声色を変えた。反撃の声色だ。
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