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「ねぇ、お母さん!一回だけ引いてもいいでしょ?」
「そうねぇ。じゃあ一回だけよ。はい300円」
準は嬉しそうに母の手からお金を受け取ると、くるりと180度回転し、屋台の方に走って行った。
今日は町一番の大イベント。
代々受け継がれてきた花火大会。
この日になると、他県からも人が大勢訪れ、たちまちに会場は人で埋め尽くされる。
橋の上から見ると、まるで蟻の巣に入り込んでしまったのかと思うくらい、真っ黒な頭が小刻みに動く。
そんな中、準を見失わないように、母は必死で両手を前に出し、人ごみを退けながら前に進む。
準が向かったくじ屋の前で足を止めると、準は屋台の前でしゃがみこみ、頭を抱え込むように地面に座り込んでいた。
慌てて準に声をかける。
「準!どうしたの??」
母は準の腕を掴み、体を持ち上げる。
準は肩を揺らし、俯いたままだ。
「どうしたの?泣いているの?」
心配そうに準の顔を覗き込むと、準は顔が見えないように両手で覆った。
母は準の手首を持ち、強引に左右に引き離した。
そして母は悲鳴をあげ、魂が抜けてしまったかのようにその場に座り込んでしまったのだった・・・。
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