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準の前に男が立つと、後ろから抱え込むように宙に浮かせ、再びお面が並んでいる棚の前に立たせる。
その時準はもう窒息しそうな状態だった。
「これはね、着せ替えお面っていって、君の顔をもらう代わりに他の誰かの顔をもらうことが出来るんだ。死にたくなければどれでもいいからお好きなお面をつけてごらん」
今、準の目には何も写っていない。
目がないのだから―――。
選ぶことも出来ず、準は両手を前に出しゆっくりと歩き、お面がある場所へ近づくと、届く所にあるお面をとり、紐に手をまわしお面をつけた。
「素敵な顔を見つけたね。今日から君は一生その顔で生きていくんだよ」
―――息ができるようになった。
話す事も、見ることも。
しかし何かがおかしいことに気がついた。
自分の顔を自分の手で触れてみる。
ここには目、ここには口、ここには鼻。
これは誰の顔なの・・・?
準の体は震えだし、顔は青ざめていった。
妙に首元がうずく。
「か・・・がみ・・・あ・・・る?」
震える声で不安と恐怖に押しつぶされそうになりながら、店の人に話しかける。
でも返事はない。
準はその場に座り込む。
「準!どうかしたの??」
母が準の手を掴み、心配そうに俯いている顔を覗き込み、隠している手を左右に引き離す。
そして母は悲鳴をあげる。
―――準はゆがむ視界と共にトイレに急いで走る。
顔を見られないように両手で押さえながら。
トイレの鏡に写る準の顔のパーツは全て逆さを向いていた。
END
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