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「じゃあね、父さん」
佑樹は必要最低限の荷物をまとめ家の門の前に立つ父親に向かって言った。
「……あっちにはもう連絡してあるから着いたら真っ先に訪ねるんだぞ。それと金は定期的におまえの口座に入れるから」
「そう……じゃあもう二度と会うことはないかな?」
佑樹は口元を綻【ホコロ】ばせると妖艶な笑みを浮かべた。
父親はそんな佑樹の笑顔に一歩引いた。
「そう……だな」
「そんなにビビらないでよ父さん。アハハ、じゃあ元気で」
佑樹は父親に背を向けるとトランクケースの取っ手を握り歩き出した。
卒業……中学を卒業したのも束の間、まさかこの年で親からも卒業するなんてホントあり得ねぇよ……。
佑樹はそのとき初めて頬を滑る温かな滴の存在に気づいた。
「ハハッ……泣いてんの? オレ……マジカッコわりぃ……」
佑樹は歩みを止めて不意に空を仰いだ。雲一つない小春日和の青い空に優しい日差し。そんな青空からフワリと舞い降りた桜の花びらが佑樹の顔に着地した。
「桜……? そう言えば遠い昔、桜の木の下で誰かとなにか約束したな……」
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