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――10年前 1995年
「もぉ……行っちゃうの?」
桜の季節、温かな潮風に乗った桜の花びらが少女の頬を撫でた。
「うん……ボク、お家に帰らなきゃ。お父さんとお母さんが待ってるから」
少年はうつ向きながら少女に言った。
遠くから聞こえる海のさざ波の音が悲しく響いた。
「や、やだよぉ……。もっと遊びたいよ……」
「ボ……ボクも遊びたいよぉ……ウワァ――ン」
「泣かないで! アタシも泣かないから……。また、この桜の木の下に来てくれる?」
「う、うん!」
少年は瞳から溢れた涙を手の甲でグッと拭うとと大きく首を縦に振った。
少女は瞳を揺らしながらスッと右手の小指を突き出した。
「指切り! 指切りしよ――! また会うって約束しようよ!」
「うん! 指切り――!」
少年は無理矢理作った笑顔を浮かべ、目の前にある小指に自分の小指を絡めた。
『指切りげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます、指きった!』
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