第三章 民宿・さざ波

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 正直美味しい……。こんなに美味しい食べ物を食べたのは生まれて初めてなんじゃないかってほど美味しかった……。  悔しいけど、お礼言わなきゃな。  一つ目のおにぎりを食べ終えると、佑樹は心配そうに見つめる紅葉から顔を反らした。 「う、美味いよ……け、けどこれはきっと景色のお陰だな! オレ、こんな大自然の中でご飯食べたことないし!」  そう言うと紅葉は一瞬うつ向いたあと、無理矢理作ったような笑みを浮かべた。 「あっそ、別に期待なんてしてませんよ! ……本当は美味しくないんでしょ? 私、料理下手くそだし……」 「はっ? 下手くそ? 誰がそんなこと言ったんだよ?」 「女将さんとか、里佳とか……私には料理の才能無いって」  目の前で震える紅葉の肩と声……。  佑樹は胸がギュッと締め付けられる気がした。  なんでだ? なんで今日初めて会ったはずなのに、こいつが泣いてるだけで胸が苦しくなるんだ……?  佑樹は紅葉の目の前に座ると、そっと瞳の下に人差し指を当てた。 「そんなことねぇよ……早乙女のおにぎりは、オレが今まで食べたどんな料理よりも美味しかった。本当だ……だから泣くな……」
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