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「別になんにも」
「別にって、アンタねぇ、私が負けるとか思わないわけ!?」
佑樹は怒鳴りながら掴む紅葉の手が震えているのに気づいた。
小さくため息をついたあと佑樹は紅葉の手を握った。
「震えてんの? らしくねぇじゃん」
「……当たり前でしょ? 私が負けたらアンタまで罰を受けるのよ? 今からでも遅くないわ、キャプテンに謝って佑樹君だけでも……」
「なんだよそれ、いつもの威勢はどこに行ったんだよ? 別に勝てば問題ないだろ? オレはお前を信じてる。あっ、そうだこれ女将さんから」
佑樹は持ってきたお弁当を紅葉に渡した。
「えっ? あ、ありがと……」
「どういたしまして。それ食って勝ってくれよ? オレのために」
「い、言われなくても勝つわよ! アンタのためじゃなくてアタシのためにね! 見てなさい! 私の実力アンタに教えて上げるんだから!」
そう言うと紅葉はお弁当片手に、キャプテン達の残した足をたどってズンズン進んでいった。
佑樹はそんな紅葉の姿を見てニコッと笑った。
やっぱ早乙女は、ムカつくぐらいが丁度いい。
春野が言ってた言葉の意味がやっとわかった。アイツ、先輩達に目の敵にされてるんだ……。
「おい待てよ早乙女!」
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