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佑樹はドアノブに手を掛けたまま凍り付いた。
別にショックってわけじゃない。ただ今入ったら気まずくなるから機会をうかがってるだけ。だいたいこんなやつら親だって認めて無いし。勝手に産んどいてほったらかしにして終いには『アレ』だと? ふざけんのもいい加減にしやがれ……。
ギッと奥歯を砕く勢いで歯を食いしばると、不意にドアの向こう側の父親が口を開いた。
「……お袋、親父が死んで寂しいとか言ってたし、最後の親孝行には丁度いいかもな」
「そうよ! 田舎のお義母さんもきっと喜ぶわっ! そうしましょうよ!」
母親の声のトーンが上がった。
それと同時に佑樹は出来うる限界の笑顔を作りながら漬物石のように重たくなったリビングのドアをゆっくりと開けた。
「ただいま、二人とも……」
突然現れた佑樹に両親は鳩が豆鉄砲でも喰らったかのような間抜けな顔になった。
「ゆ、佑樹、今の話……」
「聞いてたよ。最初から最後まで全部ね」
恐れるように小さく発する父の声を書き消しながら佑樹は言った。笑顔を浮かべながら……。
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