ある哲学者に関する記憶

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そして、その日が、来た。 センセーは、最早顔を見慣れた看守に呼ばれていった。 弟子と俺は、顔を見合わせた。 センセーは、いつもの如く微笑み、それでは、ちょっと出掛けて来ます。なぁに、すぐに戻りますよ…と言った。 俺は、なんだ釈放されんのかよ。もう牢屋になんか来んな。と言った。 弟子は、先生、なるべく早く僕も此所から出たいです。と言った。 センセーは、努力します、と宣いやがった。 センセーは、その言葉通りにした。 弟子は、次の日には外に出られた。 センセーは、二度と牢屋になんかこなかった。 俺が牢屋から出れたのは、その何年か後だった。 ▲▽▲ その日、センセーの墓に向かった。 知ってたんだ。 センセーは、人々を惑わす悪魔の化身だって言われてた事も、 弟子を釈放すると言う約束の代わりに死んだって事も。 今、センセーと同じ事を主張するヤツがいる。 そいつは、哲学者と呼ばれている。 少し見なりがおかしくて、投獄された、馬鹿な爺さん。 お人好し過ぎて死刑になった、馬鹿な爺さん。 見えてるか? あんたの弟子は、エラいエラい哲学者様だぜ?
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