ある哲学者に関する記憶

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「如何なる悪法であろうと法である事に代わりはないのだよ、君。」 そんな悟った様な事を吐かす奇妙な老人に、俺はその時初めて逢った。 「だからと言ってわざわざ大人しく捕まる事は無いでしょう、先生!」 隣りの牢屋で叫んでいるのは、弟子らしい。 「あんた、弟子いる程エラい“センセー”なのか?」 試しに訊いてみると、当然だ、と何故か弟子の方が胸を張った。 それが始まりだった。 そうして俺らは牢屋で出合った。 ▲▽▲ 次の日から、センセーは“授業”を始めた。学校の授業は大嫌いだったくせに、俺はセンセーの話だけは真面目に訊いた。 「世界は何から出来たと思うかね?」 俺が答える前にセンセーは言った。 「火から出来た。水が最初だ。土が大元だ。…色々な説がある。君は、何だと思うかね?」 ▲▽▲ ある時、俺は訊いた事がある。 「なんで牢屋にいんの?街頭演説でもしてろよ。」 「していたんですよぉ」 弟子が言った。 「そうしたら、捕まってしまっただけです」 なるほど。ま、自分らはカミサマに造られたと信じたい人は多かろう。 「先生は何にも悪い事してないのに…」 センセーは微笑んだ。 「君の気持ちで充分ですよ。」 ▲▽▲
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