0人が本棚に入れています
本棚に追加
「如何なる悪法であろうと法である事に代わりはないのだよ、君。」
そんな悟った様な事を吐かす奇妙な老人に、俺はその時初めて逢った。
「だからと言ってわざわざ大人しく捕まる事は無いでしょう、先生!」
隣りの牢屋で叫んでいるのは、弟子らしい。
「あんた、弟子いる程エラい“センセー”なのか?」
試しに訊いてみると、当然だ、と何故か弟子の方が胸を張った。
それが始まりだった。
そうして俺らは牢屋で出合った。
▲▽▲
次の日から、センセーは“授業”を始めた。学校の授業は大嫌いだったくせに、俺はセンセーの話だけは真面目に訊いた。
「世界は何から出来たと思うかね?」
俺が答える前にセンセーは言った。
「火から出来た。水が最初だ。土が大元だ。…色々な説がある。君は、何だと思うかね?」
▲▽▲
ある時、俺は訊いた事がある。
「なんで牢屋にいんの?街頭演説でもしてろよ。」
「していたんですよぉ」
弟子が言った。
「そうしたら、捕まってしまっただけです」
なるほど。ま、自分らはカミサマに造られたと信じたい人は多かろう。
「先生は何にも悪い事してないのに…」
センセーは微笑んだ。
「君の気持ちで充分ですよ。」
▲▽▲
最初のコメントを投稿しよう!