氷の瞳

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そうしてルシア達三人が立ち止まっていると、後方から微かに誰かの駆ける音が聞こえて来た。 「おーい! ねーちゃーん!」 同時に間延びした声が響く。 だが、その対象が自分であるとは気付いていないルシアは振り返る事無く、未だ手の中の袋を眺めている。 その間に、先程の声の主は更にルシア達に近付いて来た。 それはあの村でルシアが意図せずに助けた、ロアと呼ばれる少年であった。 藍色の髪を靡かせ、息を切らしながらもこちらに向かって来る。 そして、ロアは遂にルシア達に追い付いた。 「はぁ……はぁ……はぁ……ねーちゃん……、もう行くの……?」 呼吸を整えながら、ロアはルシアに尋ねる。 すると、ルシアは漸く気付いたようにロアを見た。 だが、直ぐに視線を逸らす。 「……何の用だ」 冷たく言い、ルシアは半ば拒絶する。 折角戻った心を再び崩されては堪らないと思ったのだ。 「オイラ……、ねーちゃんに頼みが有るんだ!」 「……頼み……?」 ロアの意外な言葉に、ルシアは怪訝の表情で訊き返した。 逸らした筈の視線が少年の方を向く。 「ねーちゃんって、陰刀隊って奴だろ? お願いだ! オイラを陰刀隊に入れて欲しいんだ! オイラ、強くなりたいんだよ!」 そう強く叫び、ロアは純粋な眼をルシアに向けた。 そこには焦り混じりだが、強い意志が在る。 それはルシアも感じた筈だが、ルシアは嘲笑うかのような冷笑を浮かべた。 「馬鹿か? 陰刀隊は発現者のみだ。何の力も持たないガキに、入る資格も意味も無い」 そう言って、ルシアはロアに背を向け、そのまま歩き始めた。 興味など無いとでも言うように、ロアの方を振り向く事も無く、ルシアは離れて行く。 「……オイラの両親は……外魔に殺されたんだ……」 だが、そんな悲しみに満ちた声が背中から聞こえると、ルシアは思わず足を止めた。 そして、視線を向ける事はしないが、自分の意識を背中のロアに向ける。 「オイラ……何も出来無かったんだ……。怖くて……動けなくて……。悔しかったんだ……! 護りたいのに、オイラは無力だ……。それが嫌だったから、婆ちゃんの家に行ってから、オイラは毎日木刀を振っていたんだ。今度は護りたかったから……。でも、昨日また外魔に遭遇した時、オイラは何も出来無かった……。あの時と何も変わってなかったんだ……」
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