笑う

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「……キャハハッ」 俺の脇を、部長の子供が無邪気に笑い声を上げて通り過ぎた。 どうやら、残業続きの部長の着替えを持ってきたらしい。 俺は重たい瞼を擦りながら書類に目を通す。 今日も忙しい。 「……あ、沢木さん。例の林で発見された夫婦の死亡解剖の結果が出ましたよ」 俺は、鑑識から死亡解剖の結果を受けとると、ドカリと自分のイスに腰をおろした。 まったく、俺も変な事件に関わっちまったぜ。 煙草に火を付け、思いっきり吸い込む。 妻が、夫を殺す。 ここまでならそこまで珍しい事件ではない。 しかし…… 「……死亡解剖の結果、奥さんの方は、午後5時から8時の間に亡くなっているんです……旦那さんの方は……翌日の午前1時から3時。これじゃあ……つじつまが合わないじゃないですか」 若い鑑識は、すがるような声を出した。 認めたく、ないのだろう。 「……妻の爪に入っていた皮膚は誰のだった?」 俺は、絞り出すように言った。 鑑識は、顔をしかめた。 「……旦那さんの物でした……そして、旦那さんの爪にも奥さんの皮膚が付着していました」 「……まるで…夫に締め殺された妻が生き返って、夫の首を締め返したみたいだな。」 俺は、タバコを無理やりもみ消し、立ち上がった。 「…ま、世の中そーいう不思議な事もあるさ」 俺は乾いた笑い声を上げる鑑識から遺留品を受けとる。 夫のタバコとスコップを袋から取り出す時、確かに聞こえた。 耳元で小さく笑う、女の声を……。
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