Retrial

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しばらく沈黙の時間が訪れた。 壁に掛けられた時計の針の進む音だけが、耳に響いてくる。 まだか、まだかと硬直していると、鼻をすする音がした。 「ごめんなさい」 彼女は――泣いていた。 鼻を赤くして、目から涙の筋を幾つも流して、何度もごめんなさいと呟いていた。 ああ、これか。 さっきから目の前にちらついていた真っ暗な澱みが、霧散した。 「僕は、怒られたかったんだ」 彼女はすすり泣いている。 「だから、走ったんだ」 答えは彼女が持っているんじゃない。 答えは――。 「僕が好きなのは、怒った後の君の笑顔なわけで。そのためだけに走って来たんだ。なんていうのか、とりあえず、僕は幸せだった」 話を聞いているのかいないのか、彼女は泣き続ける。 「今は君が怒るべき時であって、そうしてくれないと、何かスッキリしない」 気の利いたことが言えない。 「でも、とうとう泣かせちゃった。結局僕は、自分の事しか考えていなかったんだ」 ――これが、答えだ。 僕は、単なる利己主義のお子ちゃまだったのだ。 わかったじゃないか。 やっぱり僕の平凡な人生には、彼女は勿体ない。 それを知るために、必死で走ってきたのだ。 それは偶然ではなく、必然として。 ここで別れを告げよう。 僕は、立ち上がった。 さようなら。
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