24人が本棚に入れています
本棚に追加
“12/31 MON 23:20”
――これが、現在(いま)だ。
信じがたいが携帯がそう示しているのだから、歴とした事実だ。
開いた口が塞がらない、とはよく言ったものだ。
まさしく今、無意識にだらしなく口が開いている。おまけによだれまで垂れてきそうだ。
頭の中に、鬼のような女の顔が浮かんだ。
真っ赤になって頬を膨らませ、吊り上がった眼でこちらを睨み付けている。
その女は――僕の彼女だ。
僕と彼女は、付き合ってまだ1週間のフレッシュカップルである。
お互い気遣い合い、恥じらい合い、好かれようと努力し合っている時期である。
なのにどうして僕の脳裏に、鬼面の彼女が浮かび上がったのか。
答えは簡単明瞭だ。
彼女が短気で気難しい女性だからだ。
この7日間で、何度怒られたことか。
寝癖があったら公衆トイレに行ってまで直されたし、猫背気味で歩いていたら背中を叩いて注意された。
それはもう、とてつもなく怖い顔で。
その度に僕は平謝りに謝り、どうにかこうにか許してもらった。
本当に怒りっぽい。
だから――。
僕が今おかれている状況は、非常にまずい。
なぜなら。
12月31日の大晦日である今日、僕は彼女との3回目のデートの約束をしていたからだ。
頭を掻きむしった。
今日の昼過ぎに彼女へのプレゼントにマフラーを買いに行き、帰宅してすぐにこたつへ入り、コーヒーをすすった後に眠ってしまったのだ。
プレゼントを選ぶのに4時間かかった疲労が災いしたのだろう。
眠ってから少なくとも5時間は経過していた。
“一緒に新年を迎えようね”
彼女はそう言った。
約束の時間はとっくに過ぎている。
彼女からの連絡は、なし。
つまり、1秒でも遅刻した時点で、彼女は僕を見捨ててしまったのではないかという危険性があるわけだ。
ごくりと唾を飲み込んだ。
彼女へ電話したところで、きっと繋がらないだろう。
なら、すべきことは何なのか。
誠意だ。
誠意を見せよう。
僕は、携帯で番号をプッシュした。
最初のコメントを投稿しよう!