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呼び出し音が鳴ってる間がもどかしい。
意味もなく卓袱台の上で無作為に指を動かす。
8回目のコールで、相手が出た。
『はい、つばめタクシーでございます』
「すみません、今すぐにタクシーを1台お願いできますか?」
矢継ぎ早に氏名と住所を名乗った。この時間さえ、無駄に感じてしまう。
『はい、承知しました。ですが、ただ今混み合っておりましてそちらにお伺いできるまでに30分ほどお時間を頂きたいのですが』
「困ります。急いでいるので今すぐ来てもらわないと」
ここから50メートルの距離にタクシー会社があるはずだ。混んでいるとはいえ、30分というのは時間がかかり過ぎではなかろうか。
『ええ、当方も皆様のご要望にできる限りお応えするよう全力を尽くしておりますが、なにぶん本日は大晦日ということもありましてご用意できるタクシーが…』
通話を切った。
タクシー会社には失望した。
壁にかけられた服に着替え、コートを羽織った。
玄関に向かい靴を履き、ドアを開く。
強風と共に大量の雪が侵入してきた。
寒い。
当然だが、コートの意味を奪われるほどの寒さだ。
アパートの階下を見た。道路が凍って、アイスバーンになっていた。
待ち合わせの場所には、さすがにもういないと思われる。行くとしたら、彼女のアパートだ。
待ち合わせの場所までは2キロメートル。彼女の家はそこから徒歩で20分。歩くなら1時間以上かかる。
それに加え、この悪天候だ。今日中に着くのは無理だろう。
――だろうけど。
自問自答してみる。
『彼女のことが好きか?』
笑った彼女が、脳裏に浮かぶ。
「もちろん好きさ」
自分に言い聞かせるように呟いた。
そして一気に階段を駆け下りた。
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