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道路に出た途端、地面に右足を取られ転びそうになった。
日中に気温が上昇したため、積もっていた雪が一度溶けたが、夜に向けて一気に気温が下降し、溶けて水になった雪がもう一度凍ってしまったのだ。
だが、今はそんなことに気を取られている場合ではない。
人気のない一本道を必死で走った。途中で、何度も足を滑らせた。
やがて一本道が大通りに差し掛かった。そこからまたしばらく走って地下街への入口へ向かった。
地下鉄だと格段に早く着くことができる。
まだ終電が残っていればの話だが。
地下へ続く暗い階段を下りた。
地下街に出ると、無人の廊下を走った。
地上よりも暖かい。
両脇に佇んだ店は全て明かりを落としていて、ひっそりとしている。自分のたてる足音が、空しく反響するばかりだった。
天井に掲げられた看板を頼りに走る。
もう息が苦しい。
体が熱くなるのを感じる。いっそのこと、邪魔なコートを脱ぎ捨てたい衝動に駈られた。
だが、外の寒さを考えると決して賢い行動とは言えない。
右へ曲がり、左へ折れ、長い廊下をひた走った。
駅へ続くガラス張りの扉の前で立ち止まった。
乱れた息を整えながら、扉に手をかける。
“押す”
指示通り扉を押すが、開かない。
かといって、引いてみても開かない。
力任せに扉を揺らせど、ついに開くことはなかった。
――交通機関への希望は絶たれた。
地下鉄の営業時間は終了していた。
踵を返し、地上への出口へ向かって走り出した。落ち込んでいる暇はない。
足がジンジンと痛む。
出口は殊の外すぐに見つかり、階段を3段飛ばしで上った。
先ほどの大通りへ出ると、針のような雪が待ち伏せしていた。氷のように固い無数の結晶が、顔全体に突き刺さった。
雪と暴風との見事なコラボレーションで、体力は一気に減少した。
間に合う術はないのか。
腕時計に目をやると、23時30分を指していた。
あと30分。物理的に無理だ。
でも――。
止まってはいけない。
走れ、
走れ、
走れ!!
心の中で、何度も叫んだ。
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