Run

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降雪の勢いは増すばかりで、ついには目を開けていられないほどになった。 精一杯酸素を取り込もうと口を大きく開いても、味のないシャーベットを食べている感覚になる。 走れば走るほど体は熱くなるが、顔面や手足の感覚が麻痺していく。 爪先に至っては、もう自分のものではないかのようである。 つるつるの氷上に雪が積もり、更に走りづらい。それに、降りしきる雪が小粒から大粒に変化し、眼前1メートル先が見えない。 街灯や家の明かりが雪に遮られ、ぼやけている。 辺りに人の気配はなかった。 自分の呼吸の音に奇妙な雑音が入り混じったのは、地下街を出てから700メートルほど走った頃だった。笛のような、泣き声のような音だ。 どうやらそれは、気管支の悲鳴であるらしい。酸素を取り込む機能が低下しだしたのだろう。 苦しい。 小学生の頃、アレルギー性の気管支喘息を患ったことがあるが、その時の発作に似ている。 走れば走るほど、呼吸困難になってくる。 堪らず、走る速度を落とした。 肺いっぱいに空気を吸い込んでいるのに、窒息しそうな苦痛が続いた。 留守番電話の発信音のような音が、耳の奥で鳴った。 耳が痛い。付け根からちぎれそうなくらい痛い。 まばたきをしても瞼が貼り付いて、目が開かない。真っ赤に変色した指で瞼をこじ開けた。それから、手で耳を覆った。 ドクン、ドクンと脈打つ首筋が、唯一生きていることを物語っている。 ――もう僕は、ほとんど静止していた。 格好は走っているようだが、速度は徒歩よりも遥かに鈍重であった。 一歩踏み出すごとに体温が奪われ、体中の骨がきしみ、意識が朦朧とした。 不可抗力的に、膝が折れた。 ぐしゃりとその場に崩れた。 地面に叩き付けられたはずの右頬には、何の痛みも感じなかった。 容赦なく降ってくる雪は、溶けもせず徐々に体に降り積もる。 目が霞む。 だけど、目の前に赤いものが広がっていく様子だけは、やけにはっきりと見えた。
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