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あれは最初のデートの時だった。
僕たちはクリスマスの余韻の残るショッピングモールを歩いていた。
うさぎの電飾が光る本屋の前を通った時、それまで笑顔だった彼女の表情が急変した。
視線の先には、若いカップルがいた。二人とも、高校生くらいだろうか。
短く刈り込んだ黒髪の男が、化粧っ気のない女に頭を下げていた。
明らかに男は女に対して謝っている。女はそんな男を見下ろして、腕を組んで仁王立ちになっている。
修羅場だな。
そう思って、可笑しくなった。
だけど彼女が発した言葉は。
“最低な男だわ”
心底軽蔑しているかのように、カップルに向かって呟いた。
そこで僕は初めて気付くことになる。
彼女と付き合うのは、実は相当大変なのではないかということを――。
だが、時すでに遅し。
彼女は僕の頭を見て、眉根を寄せた。
後頭部から一束飛び出た寝癖を発見したらしい。髪の毛が長いせいだと言われ、短く切るべきだと説教された。
大体、公務員なのにそんな重たい髪型をしていていいのか、客ばかりではなく同僚や上司に対しても印象が悪くなるのではないか、それに髭も剃り切れてないじゃない。不潔、不潔すぎるわと彼女はマシンガンのごとく喋りに喋り散らした。
正直、ドン引きした。
ごめんよ、時間がなくて身なりを整える暇がなかったんだと苦し紛れに言うと、彼女はふぅ~んと僕を見上げた。
そして、上目遣いににっこりと笑ってみせた。
“もう。仕方がないわね”
僕はまた、その笑顔に心を奪われた。
潤んだ瞳を細め、瑞々しい唇をきゅっと上げ、仄かに赤みを帯びる頬を膨らませた彼女の表情は、まさに女神のようだった。
何とも言えない、至福の瞬間だった。
だけどこの日は、それを最後に二度と笑うことがなかったように思う。
そうだ。
これが、彼女に怒られた初めての場面だった。
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