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「うっ…」
立ち暗みのように目の前が真っ暗になったがすぐに視界が開けた。視界が開けたそこは炭鉱の出口ではなく狭いトンネルの入口があった。
「なんだ…これ…」
周りにはなにもない。薄暗い空間が永遠に続いているように見えた。
小さいトンネルだけは不気味に青白く光っている。
「きっと夢だ…起きたらベッドの上で可愛いナースに起こされるに違いない…」
自分に言い聞かせながらもトンネルに入る。はやく夢から覚めろと頭の中でつぶやいたが、夢ではないことにすぐ気付いた。
トンネルのなかは空間が歪んでいるようでヌルヌルしている。
「なんだろう…懐かしい感じがする。」
出口にたどり着くとトンネルの外には村があった。しかし様子が違う。薄暗く空は紅に染まっていて、空気は重く冷たい。なのに生温い…血のにおいがする風が吹いている。しかし渡辺には懐かしかった。もともとここにいたような気がしていた。
村には人一人いない。虫も鳥も、生き物が何一ついない。しかし村全体が鼓動をうつようにうねり、鳴いている。
「ここは…浅野村なんだよな…」
呆然と歩いていると遠くに人影が見えた。たしかに人の形をしていた。
「おお-い!!そこの人!!ちょい待ってくれ!」
渡辺は呼び掛けた。そして人影はこちらに寄ってくる。
しかしそれは人ではなかった。人の形をした…ミミズのような触手の生えて不気味な生き物だった。
「な…なんだお前…」
渡辺は警棒を抜いて殴ろうとした。しかし異形は攻撃する様子ではなかった。小刻みに震え、なにか伝えようとしている。
『忌々しい…忌々しい…人間が…忌々しい…忌々しい…忌々しい…!』
異形はそう呟きながら泣いているように見えた。
「なんなんだ…なんなんだよお前…」
渡辺は混乱していた。突然おかしな世界に迷い込み、目の前にモンスターがいる。しかも喋っている。彼は頭が回らなくなっていた。
『忌々しい…忌々しい…忌々しい………お前も…忌々しい…お前も!!』
異形はそう言うと渡辺に何かを手渡した。
「なんだよ…これ…」
それは鍵とベトベトしたメモ帳だった。
『お前…見つける…見つけて…見つけてくれ……渡辺…一樹……一樹…』
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