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微熱があるのではないかと見紛うような寒気が背筋を伝う中、私はスーパー銭湯に立ち寄り、一目散に露天風呂に入った。
ほのかに寒気の走る背筋に少し熱めの湯が気持ちいい。私は湯に浸かりながら心の中で老婆に語りかけてみた。『湯が気持ちいいぞ。そんなところにいないであんたも入らんかね?』
すると霊的なビジョンが見え始めた。原野の中、草に覆われた丘。そうだ。あの店舗の場所だ。木がたくさん生え、道も建物もない。あの店舗の場所に小さな池が見える。騙され財産をとられた上斬り殺された老婆が池に投げ捨てられているのだ。殺した相手は老婆の身内に見える若い男だ。
そんなビジョンを見せた後、老婆は私の前に姿を現した。
『どうせ風呂にはいるんだ。何も死んだときの姿でなくとも良いではないか。折角だから一番美しかった時の姿にしてくれないだろうか』
すると老婆は一瞬にして若く美しい…しかも一糸まとわぬ姿になった。
女は私の一部が反応したことを確認し、微笑みながら言った。
『いい湯だ。これで未練はない。ありがとう』
そう言うと女は半透明になりながら上へと上っていった。
私の背筋の寒気は知らないうちに消えていた。
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