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飛希は少しの不安を覚えながら、さっきより強くドアをノックした。しかし、やはり返事は返ってこない。
彼の家はいわゆる集合住宅なので、あまり大声は出せない。
飛希は「冬夜!」と彼の名前を小さく叫びながら何度もドアをノックしたが、ついに返事が返ってくることはなかった。
すると斜め後ろの部屋のドアが開き、中からのっぺりした感じの男が出てきた。
男は飛希に目を向けると、単調な声のトーンで、「あんた、そこの部屋のヒトの知り合い?そのヒトなら3日くらい前に出ていったよ。家賃払えなくなって追い出されたんじゃない?」とだけ言い、踵を返すとさっさとどこかへ行ってしまった。
「嘘……」
飛希はしばらくドアの前で呆然と立ち尽くした。あまりに驚いたためか、涙すら出ない。
やがて飛希は絶望的な表情で首を横に振ると、操り人形のようにフラフラとした足取りで、その場を後にした。
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