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男は窓の方を向いたまま、ゆっくりと話続ける。
「さぁ……答えを聞かせてください。私と婚約するか、それとも貴女の父親の会社の倒産を黙って受け入れるか。……もちろん、私はどちらでも構わない。どちらにしても私に不利益はないからね」
飛希は覚悟を決め、ゆっくりと息を吸い込んだ。そして大きな黒い瞳で、窓を向いたままの男の背中を見据え、震える唇でこう答えた。
「……分かっています。初めから、私のとるべき道は一つしかないと。…──貴方との婚約を承諾します……」
それを聞いた瞬間、男が優雅な動作で振り返った。その端正な顔に浮かんだ表情はとても穏やかで、そして一瞬の後、飛希に近付くとその体を抱き締めた。強く、しかし包み込むように優しく……。
飛希は、その腕の中に素直に抱かれ、ゆっくりと目を閉じた。閉じた瞬間、涙が一筋、彼女の頬を伝って流れ落ちた…──。
そして男の腕に抱かれたまま、飛希はこう言った。
「……電話の主は貴方だったの?貧乏な筈の冬夜くん……」
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