一本の電話

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それから暫くして、父は飛希に喝を入れられ、涙目のまま社長室を追い出された。 「泣いてる暇があったら、融資をしてくれるトコを探しなさいッ!この電話だって、実際ホントかどうか分からないんだから!もし悪戯だったら、自力で何とかする以外ないんだからね!さ、仕事仕事!」 そして父が出ていったのを見届けた飛希は、自分にしか聞こえないくらいの小声で、静かに呟いた。 「いいのよお父様……。私の恋は、一生叶わないと決まっているもの。だからこの話がもし本当だったら、私は…──」 しかし、そこから先は言えなかった。溢れる涙に言葉を流されたかのように、飛希は無言で泣いた。愛する恋人を想い、叶わぬ恋を憂い、泣き続けた。 「冬夜…──」 飛希は小さく恋人の名を呼ぶと、重い足取りでゆっくりと社長室を後にした。 月の無い夜空のように暗く深い静寂が、誰もいなくなった社長室を包んだ。
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