壱,

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 青年は自室のテラスから、空を見上げて呟く。 「月も、星も、太陽もない。真の暗闇……」 「クロス様。お譲(じょう)さまとお坊(ぼっ)ちゃまが、お目覚めです」  幼い二人の身の回りの世話を、している婆やが、目を覚ましたばかりの二人を引き連れて、部屋に入ってきた所だった。 「おいで…、昴(すばる)、皐月(さつき)」 『クロスゥ……』  室内に入り窓を閉め、片膝をつくと昴、皐月と呼ばれた少女と少年は、婆やの元を離れてしゃくり上げながら、クロスに抱き付いた。  青年の名前は月城クロス。肩を少しこすぐらいの、黒混じりの群青色の髪を、深紅の紐で一つに括り青みがかった黒い瞳には、不安の色が見え隠れしている。  しわひとつない白いワイシャツに、黒いスーツを上下にきて、紺色のネクタイを締めている。 『大丈夫だよね、太陽は昇るよね? 大丈夫だよね?』  少女と少年の名前は、星昴と星皐月。  昴は肩口で切り揃えた烏羽(からすば)色の髪に、藍(あい)色の瞳。様々な星座模様の入ったパジャマ姿。
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