壱,

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 月城学院の敷地内には、幾つかの世界遺産に認定されている、山や樹がたくさん植えられている。  その内の一つに一年中、見事な薄紅色の桜の花を咲かせている万年桜の古木が、生えている山がある。  万年桜から少し降(くだ)った中腹に、神殿(しんでん)が建っている。  神殿の奥で白木(しらき)を井桁(いげた)型に組んだものを三つに重ね、四方を注連縄(しめなわ)で囲まれた中で青白い焔(ほのお)が、燃えていた。人影は焔を微動だにせず、凝視している。  胸や袖(そで)の縫(ぬ)い目に蒼色の菊綴(きくと)じという飾りがついた白水干(すいかん)に、鮮やかな朱袴(しゅばかま)姿。  人影の名は五十鈴(いすず)ちよみ、神に仕え神託(しんたく)を告げる巫女の役職にある。  焔がひときわ大きく揺らぎ、一瞬焔の色が白に変わった。 「天照様が…消えつつある。世界から光が消える事によって、光に封じられてきた禍き者達が、解き放たれてしまった。集めないと禍き者達を、再び封じる力を持つ者達を……」  ちよみは憂いをおびた表情で、嘆息すると東方についている明かり窓から、少しだけ見える空を見上げた。
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