壱,

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 一人の少年が、足速に暗い中を歩いていた。灯は手に持つ灯籠ただ一つだけ。 「龍神!! いますか!? 龍神!?」  一棟丸々書斎に、なっている離れの扉を乱暴に開け放った。  バンッという鋭い音が、幾重にも重なってこだました。  少年は昨夜から書斎に入ったきり、出てこない再従兄弟を呼ぶため、慣れない叫び声をあげた。  開け放った扉に、片手をついた状態で数分の時を数え、肩で大きく息を吐くたび、手に持った灯籠の火が、揺れた。  反響してこだまが幾重にも、返ってくる。その後、静寂が辺りを満した。返事はない。  少年が業を煮やして再度叫ぼうとしたとき、少々足早な沓音(くつおと)が響いた。 「……やっときた」  真っ青な顔で息をついて、扉に寄り掛かった。  こつこつという沓音が徐々に大きくなって、やがて棚の間から一人の少年が姿を現した。  少年の名前は冥邪龍神(めいやりゅうしん)。藍のまじった黒髪をポニーテールに、束ねて切れ長の目は涼しげで、瞳は青みがたかった紺。
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