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「おっきろー、兄貴っ」
「ぎゃっ」
朝のまどろみを一身に受け、惰眠を貪っていた俺の顔面、特に鼻に痛烈な痛みを受けて飛び起きた。
「もう一発!」
「ふぎゃっ」
鼻の奥に独特の匂いと痛みで急速に覚醒していく意識に、更にもう一撃お見舞いされて、危うくきれいな河を渡り掛けた。
この力の加減の知らない拳を振り上げてくる奴は、この家には一人しかいないり
「痛てえよっ、琥珀(こはく)!」
「グッモ~ニンッ、兄貴。いいお目覚めは出来た?」
痛む顔を押さえて起き上がる俺の上に見慣れた物体がマウントポジションで手を振っていた。満面の笑みを浮かべてこちらを見ているその顔に、軽い殺意を覚えながら睨みつける。
「兄貴を殴るとは……なんて、弟だ」
「あたしは女の子だよ!」
「ぐふっ」
鳩尾に一発。握りしめた拳が容赦なく撃ち込まれていた。
『打つ』ではなくて『撃つ』とはまるでミサイルのようなパンチだからだ。
そして訂正しよう。
こいつは女の子だ、それも俺の妹。
あのでこぼこのない身体でも、女の子に見えない言葉遣いでも間違いがあってもなくても一応は女の子だと言う事だ。
おっと、こんな冷静に解説している場合ではなかった。
どうやら俺は寝ていて夢を見ていたと言う事か? それにしても、なんて夢だったんだ。
体操着の女の子、しかも紺色ブルマ着用という夢のような格好は嬉しかったが、フンドシ一丁の野郎共はいらなかった。そんな連中に『おにいちゃん』『兄貴』呼ばわりされて追いかけられる夢はいかがなものだろうか。冬なのに汗だくになってるし、最悪だよ。
「ったく……グッモ~ニン、じゃねえよ。毎朝何するんだ、お前は」
「目覚し時計の代わり? こんな可愛い目覚まし時計はいないよ?」
可愛く首を傾げてるんじゃない。こんな暴力的な目覚し時計はいらないぞ。と言うか、自分で可愛いと言っているあたり、随分と痛い事だ。
それに俺は頼んでない。
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