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そこまで話を聞いて、私の目から静かに涙が流れる。
それを見てモリヤくんは目を見開いて驚いた。
「な、何で泣いているっ!?」
「あ、ごめんねっ!!なんか泣けてきちゃって…。よかったね!!モリヤくん、最高の人がご主人様になったんだね…本当によかった…」
「……チッ、涙脆い女だな…僕の調子が狂う」
そう言ったモリヤくんの頬は少し赤くて、少しすねたような表情だった。
「……私、モリヤくんのためにしてあげれることって何も無いけど、モリヤくんのために泣いてあげる。モリヤくんのために笑ってあげる。きっとそんな当たり前のことでも、モリヤくんには必要なものだって思うから…」
私が笑うとモリヤくんは視線を反らして「いらないっての…」と小さく言った。
でも、それが本心じゃないって、私には分かる。
カタンッと小さく鳴ってエレベーターが止まる。最上階に着いた。
ドアが開いた先には三メートルほどの白い石の廊下が、灰色のドアに向かってスッと延びている。
モリヤくんに続いて廊下を進んで行くと、灰色のドアがカチャリと開いた。
「あ、和夜っ」
現れたのは和夜だった。
白いシャツにジーパンというラフな格好にも関わらず、立ち姿がカッコいい…。
お気に入りの、シルバークロスが光る黒のチョーカーが引き立つ。
「遅くなりましたっ」
モリヤくんが素早く頭を下げる。
和夜は「大丈夫だ」と一言言うと、ドアを開け放った。
「入れ」
私は胸の高鳴りを押さえながら、部屋へと足を踏み入れた。
一般的な造りと違い、この部屋は外国みたいに土足になっているようで、靴を脱ぐような段差は無く、和夜は靴のまま床を歩いて行く。
私も慣れないながら、恐る恐る靴のままついて行った。
中はと言うと、マンションの一室という次元を越えていた。
マンションの中にも関わらず6DKという広さで使ってない部屋もあるらしい。
ワンフロアということもあってか、一般的な一軒家の中より豪華だ。
家具はモノクロで統一されていて、無駄な物が何一つ置かれていない。
生活に必要な最低限の物しかないと言った感じで、なんだか住宅展示場に来たみたい…それくらい生活感がない部屋だった。
大人な感じと言えばそう取れなくもないが、それは「寂しい」とさえ表現出来る。
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