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「なんか…シンプルだね。CDとか聴かないの?」
「見えないだけでちゃんと聴いている」
そう言って和夜はテーブルの上にある四つのリモコンのうち一つを取り、白い壁の一ヶ所に向かってボタンを押す。
するとそこの壁は左右に開き、中からは高級感漂う大きなコンポが現れた。
しかも驚いたことに、そこの壁が開くと部屋の天井の角にスピーカーまで出てくる始末。
…この部屋は忍者屋敷か…………。
設備に圧倒されながらも、私の興味は絶えない。
「どんなの聴くの?」
「洋楽とクラシックが主だ。たまにジャズを聴いたりもする」
「あぁ…なんか似合ってる。家電はオール電化だし、部屋は広くて最新式なものばっかだし…モリヤくんと一緒にっていっても、寂しくないの?」
「……その感覚がわからんのでな」
「じゃあ…和夜は寂しい人なんだね」
「俺が……寂しい?」
和夜は不可思議という顔をした。
「うん。『寂しい』って感情が分からないって、なんかそれだけで寂しい気がする。周りに恵まれてる人もいるけど、それって『恵まれてる』以前に『寂しい』を経験してるから分かることだと思うんだ。だから『寂しい』がわからない和夜は、今寂しいの」
「……言っている意味がわからない」
「いつかわかるよ。わかった時に和夜は『寂しい』を感じてるんだよ」
私がそう言うと和夜は無言になったけど、私が言ったことを考えてくれているようだった。
「…あっ、和夜様。そろそろお時間です」
テーブルに置かれた時計に目をやったモリヤくんが言う。
「あぁ」
「時間って……『城主』に会いに行く?」
これに答えてくれたのはモリヤくんだった。
「そうだ。和夜様の部屋には、特別に城主様の所に直接繋がる時空の穴が設けられているんだ。そこは和夜様専用の出入り口となっているから、和夜様でないと開くことは出来ない」
時空の穴……今まで夜獣なんかに会ってきて非現実世界を体験してきた私だけど、時空の穴なんて言葉を聞くと、まだ私はロープレかマンガの世界に迷いこんだんじゃないかと改めて思ってしまう。
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