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和夜は一人でサッサと先に進み、部屋の中でも一番奥に当たる部屋のドアを開けた。
部屋の中は、やはりモノクロで統一されたベッドやクローゼットが置かれた寝室のようだった。
和夜は部屋には入らずに、ドアを開けたまま言葉を発した。
「『我の声を聴き、応えよ』」
そう言った瞬間、ゴオゥッ!!と聞いたことのないような音がして、モノクロで統一された寝室は跡形もなく消え、代わりに暗闇が広がっていた。
まるでどこ●もドアを見ているようだった。
暗闇からは風の音まで聞こえている…本当にドアの向こうは別世界に繋がったようだ。
「行くぞ」
いつの間にかモリヤくんが持ってきてくれていた、いつものコートを着るなり、和夜はそう言って暗闇に進んで行く。
和夜の体はみるみる暗闇に紛れ、あの綺麗な白銀の髪でさえ見えなくなった。
「ね、ねぇモリヤくん……これ人間が行ったら死ぬなんてことないよね…?」
「さぁな。今まで人間があちらの世界に行ったことがあるなど聞いたことはない」
「そ、そっか……でも、行かなきゃいけないんだよね………よーっし!!覚悟決めた!!当たって砕けろよね!!」
実際は砕けたくないけど…と心では思いつつ、自分の顔を両手でパチンと叩き気合いを入れてみる。
それから目をギュッと閉じ、勢いよく暗闇へ突っ込んで行く。
一瞬突風に煽られた後、フワッと甘い香りが鼻をついた。
その香りにゆっくりと目を開けていく。
「ここ……が…?」
甘い香りの正体は、見たことのないピンク色の花だった。
その花は、足元から見える限り一面に敷き詰められたように咲き乱れている。
あまりに幻想的な花畑に、思わず言葉を失って見惚れていた。
「ここが、『城主』の世界だ」
その声のほうを見ると、和夜がこちらを見ていた。
ピンクの花と白銀の髪は、妖艶なまでにあっている。
「城主の…世界って?」
「城主が自分好みに作った世界だ。俺はこの甘い香りが苦手なんだがな」
「和夜にも…苦手なものがあったんだ。……この花の名前は?」
「蜜月華(みつげつか)。蜜のような香りと、月のように花びらが形を変えることから名付けたらしい。これも城主の作り物だ」
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