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端正な顔立ち、月のように白い肌。切れ長の瞳に長い睫毛。
それは、私が初めてお目にかかる美形だったのだ。
キョトンとその顔に視線を奪われてしまって、しばらく見つめてしまう。
「聞こえてなかったか?」
もう一度声を掛けられ、またもやハッと我に返って「は、はいっ」という返事の声が裏返る。
「いつまでそうしている。早く立て」
「す……すみません…」
なんか、敬語で謝っちゃった。威圧的なんだもん、この人。
ゆっくりと立ち上がり、化け物がいた場所に目をやる。そこには何もなかった。
「あの……今の化け物は…」
私を一瞥して、彼は一つ息を吐いた。
「夜の獣と書いて『夜獣(やじゅう)』。人を喰らう異形の存在だ。近年何故か急増している」
そういえば、最近物騒な事件ばっかりだった。
変死体が毎日のように発見され、その変死体も一日に一体や二体ではないとニュースで連日放送されているのを見た。
犯人は見つからず、手掛かりすら掴めていないという。
その謎も今判明した…警察が犯人逮捕出来ないのも当然なわけだ…。
それはともかくとして、私の中の素朴な疑問が口をついた。
「あなた……誰?」
「……和夜(かずや)と、昔は呼ばれていた」
「か…ずや……?」
「和みに夜と書く」
「………それ、言い方間違ってるよね」
「なに…?」
「『和みの夜』…でしょ?なんだかあなたにピッタリねっ」
冷たい視線はアスファルトの地面に落とされ、彼は悩んだようだ。
「変わった女だ。夜獣に襲われた後なのに、笑っていられるとはな」
「あなたが消してくれたじゃない。だから笑っていられるの。あ、私は千雪。千の雪って書いて、千雪よ」
「………今度会えたら覚えておこう」
そう言って和夜は空高く舞い上がり、闇へと姿を消した。
あの人にまた会うって時は、私があの化け物にまた会うって意味だから…出来れば会いたくないんだけど…。
そう思っていたけど、心の端のほうでは『ナイトハンター』にまた会いたいという気持ちも確かにあったりして……。
「……まっ、もう会うことはないって祈っとこ」
そう呟いて私は帰路を走って行く。
その時の私は、自分の『運命』を着実に歩んでいるとは、全く考えていなかったのだった。
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