凍える小品

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 なんの気無しに手に取った自分の通う大学のパンフレットを見て、学生のサークル参加率が七割を超えているという一文に、それがなんだと顔を顰める。  ある程度地元民が集まる高校と違って、全国から学生の集まる大学で、入学したての自分は焦っていた。好意で時間割を見てくれた同じ学科の先輩が 「大学は何でも自分でやらなくちゃいけないから、友達を作って情報共有した方がいい。一人だと、なにかあった時に誰も助けてくれないぞ」 と、脅してくるものだから、活動的な運動系のサークルの新歓コンパに誘われてついていき、そのまま一員となった。  入ってみれば、運動はお飾りのただの飲みサークルで、飲みたくない時も飲まされ、潰され、先輩のお顔を伺わなければいけない生活にいやいやしていた。  だから、三年になって、ゼミで初めての飲み会で、宇田川が今まで一口も酒を口にしたことがないと聞いて、そんな人間がこの大学にいたのかと、とても驚いた。  宇田川は学科が違うもののうちのゼミに入ってきた、東島ゼミ唯一の他学科の学生だ。サークルには参加しておらず、家に酒飲みがいないので今日の飲み会が初飲酒だと言って張り切っている。  自分はまだ宇田川という男をほとんど知らない。だが、先ほど座敷席に入るために靴箱の空きを見るけるのが誰よりも遅く、鈍くさいやつなんだろうなとなんとなく印象付いている。  騒ぐゼミ生の間に入って行けず、席決めのくじを引いたのは1番最後。自分の隣が空いていたから引くまでもないと思っていたが、テーブルに置かれた番号と自分の持っている紙を照らし合わせ、宇田川はやっと腰を下ろす。  他がすらすらと何を飲むか注文を済ませる中、宇田川だけがメニューとにらめっこしたまま固まっていたので、見るに耐えなくなって話しかけたら、酒を飲んだことがないのだと判明したのである。  せっかく来た初めの飲み会だから、アルコールを摂取したいという彼の意思を尊重し、無難であろうカシオレを勧めたら、宇田川は勧められるがままにカシオレを頼んだ。無駄に強くなってしまった自分は、とりあえずビールを頼む。  酒と料理が来る間に、宇田川とぽつぽつと話をした。カシオレの件で彼に良き相談相手と思われてしまったらしく、課題やテストについての相談を受けた。
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