凍える小品

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  「止めろ。いいか、絶対だぞ。でなきゃお前、死ぬぞ」  そう言いながら、次の講義に向かうため宇田川から離れる。 「でも、どうしても行きたいんだよ」  宇田川の声は、自分には届かなかった。  友達三人と昼飯を学食のテラスでとっていると、サークルの友達がやけに興奮した様子でこちらに駆け寄ってくる。道行く人などお構いなしの走りっぷりに、通行人のほうが止まって道を開ける有り様だ。思わず、あいつと知り合いであることが嫌になって、他人のふりをしたくなる。 「やばいぞやばいぞ」 「語彙が貧相だぞ」 「イ棟の前で犬井のゼミの女二人が気の弱そうな男に絡んでめちゃくちゃに怒鳴ってるんだよ。同じゼミ仲間として、見に行ったほうがいいんじゃないの?」  思い当たる節があって、食べかけの学食を放置して立ち上がる。荷物を友達に預けて、問題のイ棟に行くと昼ドラの様な修羅場が出来上がっていて、立ち止まってまで見る野次馬はいないものの、ちらほらと視線があちこちから飛んでいる。誰も関わろうとはしない。傍観者効果というか、ここにいるのは全員日本人だ。  関さんと松川さんが一方的に怒鳴っている。言い返せずに俯いて顔を挙げられなくなっているのは予想通りの宇田川だ。砒白が絡んでいることは明確だが、なぜあの二人が宇田川に激怒しているのかまでは分からない。 「関さん達、ちょっと」  呼ばれて一瞬、はっと、するもののすぐに苛立ち混じりの声で宇田川を傷つける言葉を言い出す。ここでは目立つし、話しなら聞くからと一所懸命二人をなだめて解散するように促す。  関さんは渋々といった感じで従おうとしたが、松川さんの方がおもむろに宇田川との間を詰め、止める間もなく彼を思いっきり引っ叩いた。宇田川は無言で頬に手を当て、二人がいなくなってから、ようやくこちらに顔を上げた。
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