鹿威し編

2/38
59人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
 真夜中の参道にしんしんと降り積もる白銀の雪。その白い絨毯の上を、二人の男女が踏みしめていた。  暗い空間を月光が照らし、それをまた雪が反射する。 「俺としてはもう少し時間が欲しかったんだが、そうも言っていられない状況なのでな」  ロングコートを羽織った男が、懐から銃を取り出し、女の額に充てがう。途端に鋭くなる女の眼光。 「さようなら。鳳凰感染者」  引金が引かれる、――刹那。銃は弾かれ、女の手に握られた。女の刺すような微笑に、男は一瞬のけぞる。 「やめろ……やめろ……やめてくれ……ま――」  真冬の寒々しい夜空に、音無き銃声は響いた。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!