序章

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 人の最期を見るのは、周りの人にとってどういう気持ちなのだろうか。それも先生に訊いてみた。すると、先生は、 「人の最期を見るのはとても哀しい事だよ」と答えてくれた。  でも、みんながみんな、哀しいわけでは無いだろう。きっと、その中に嬉しがっている人もいれば、悔しがっている人もいるだろう。  私がそうだった。哀しくは無い。でも、悔しかった。正月に貰うお年玉。それが少し減ってしまうのだから。  どうして人は死んでしまうのだろうか。それは先生に訊いてみようとは思ったが、少しずつ先生が私に対して変な目を向けている事に気付いていた。だからそれ以降、何も訊いていない。  人間はみんな、信じられる生物ではない。私はそう思う。  人間は、欲望の為に生きているのと同じ。欲望を良い言い方をすると、希望だ。その希望が無い人間は、すぐに死んでしまうのだと、私は思う。  希望が無いから、私はきっとリストカットをしているのだ。思えば、私は欲しいものややりたい事など何一つ無い。だから、一時期無理やり作ろうとした。でも、失敗した。すぐに諦めたのだ。  あの夢も関係がある。あの変な夢。荒れ果てた世界の夢だ。夢はあまり見ない体質だから、よく憶えている。  あの夢を見て以来か、リストカットなど、自殺行為をし始めたのは。  そう言えば、希望があった。私にも、希望があった。どうしてこんな単純な希望を見逃していたのだろうか。  私の希望、それは、『生死』だ。  リストカットをして、死にたい。でも、生きたい。そう言った気持ちが私にはあるのだ。  つまりは、毎日夢を見て、一生目を覚まさない状態がいいのだ。もっと簡単に言えば、童話の『眠り姫』のような状態がいい。でも、王子様は必要ない。私には必要ない。どのみち死んでしまう人間だ。恋などして、後で後悔などしたくは無い。  身勝手極まりないけれど、私はそれが、一番良いと望んでいる。
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