赤か、青か。

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自分は何がしたいのだろう。そう考えることが多くなった。 何かに興味があるわけでもなく、目標があるわけでもない。愛する人もない。 自殺した両親を思い出す回数も増えた。その当時私は小学生で、いつまで経っても帰宅しない両親をただ待っているだけだった。誰かと電話をしていた祖父の背中が、だんだんと小さくなっていくように見えたことを覚えている。   家へと車を走らせながら、腕時計をちらりと確認する。 『22:36』 溜まった書類の整理をしていたら、こんな時間になってしまった。 車に着いている時計は、ライトが点かないため、夜は見ることができない。結局修理は頼まなかったな。   いつも夕飯や夜食を買いに寄るコンビニを通りすぎる。この場所から家に着くまで、信号はあと一カ所だ。 私は考えた。例の"選択法"だ。 私があの信号を通る時、赤ならばもう少し頑張ろう。青ならば、昨日買ったあのナイフの出番だ。もしも黄色ならば…その瞬間の自分の意志に任せよう。   ルールを定めているうちに、問題の信号が迫ってきた。 青である。憎いほどの、青。 まあ、そうするべきなんだろうな―私はアクセルを踏み込んだ。 思えば、なんの未練もない。育ててくれた祖父も、癌に蝕まれ、去年死んだ。 信号通過まであと50メートル。 私の目は、青から黄色へ映る運命の光をとらえていた。 停まるか?停まらないか? 私がいなくなったからといって、職場もそれほど困りはしないだろうし、彼女は新しい恋人とうまくいっているはずだ。 しかし― 私は何を迷っているのだ? 停止線まで30メートル。 早く決めなければ。   ―私は、どうしたいのだ?
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