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ある春先。
空は晴れわたりそれだけで気分がいい。
ここは田舎町のとある港だ。
その港には不釣り合いのス―ツの男が二人。
手ぶらで歩く男は探偵の香野 真治。そしてその少し後ろを二人分の荷物を重そうに持って歩く男は刑事の高田 竜平だ。
二人はこの港でとある人物と待ち合わせをしていた。
午後の港は漁も終わっているので静かだった。
香野は潮の香りを満喫しながらスタスタと歩き続けた。ふと後ろを振り返り高田に声をかける。
「荷物持ちましょうか?」
「いえ、大丈夫です」
高田は苦笑いでそう答えた。
高田は後悔していた。何故あのとき“荷物は私が持ちますよ”と言ってしまったのかと。そして今も何故香野の善意を断ってしまったのかと。
そんな事を考えながら歩いていると前の方から香野の声がした。
「あの人じゃないですか?」
その声につられて高田が香野の指差す先をみると中年のガッチリした体格の男が立っていた。
男はエンジンのかかった漁船の前にいる。
漁船には船の名前が書いてあった。“龍虎丸”船にはそう書かれてあった。
「龍虎丸と書いてあります。あの船で間違えありませんね」
香野がそう高田に話しかけてきた。高田は重いのを我慢して答える。
「そうみたいですね」
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