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『は~い?』
インターホンの音に梅垣は思わず反応した。
そしてドアの覗き口からソッと外を見た。
すると家の前には俳優の故川谷拓三似の初老のじいさんが立っていた。
『誰っすか?』
見た事ない人物に梅垣はドアを開け尋ねた。
『ワシ…305号室のモンやねんけど』
老人は人なつっこい顔で微笑んだ。
『そうですか…302の梅垣です。よろしくお願いします』
梅垣は型通りに頭を下げた。
『それでな…兄ちゃん』
『何です?』
『ワシ仕事柄たまに深夜とかトンカチうるさいけど許してな』
老人は頭を下げた。
『何してる方か知りませんが今んとこ気になりませんし大丈夫ですよ』
『兄ちゃんギャンブルは興味ある?』
いきなり老人が話題を変えた。
『ギャンブルですか?』
『そう』
『まあ競馬はたしなむ程度にやりますが…』
『パチンコは?』
『興味ないっすね』
『そっか…』
なぜか老人は残念そうに頭を掻いた。
するとここで愛が会話に割り込んで来た。
『私はパチンコ好きやで』
『お姉ちゃんホンマか!』
老人の顔に笑顔が戻った。
『あんまり勝てないけどね』
『勝てる台は釘で分かるんやで』
『へえ~』
『それで…』
ここで老人は再び梅垣に目を移した。
『何すか?』
『兄ちゃん1万でいいから貸してくれへん?』
『はあ~?』
梅垣はいきなりの申し出に驚きの声を上げた。
『ワシ釘師やからいい台教えてあげるし』
『……』
『1万無理なら1000円でもいいし』
『1000円って…』
梅垣は老人のあまりのひもじさに絶句した。
『頼むわ兄ちゃん…ワシ今家に布団もないんや』
『マジっすか!』
『この所仕事少なくてな』
『…』
梅垣はまたも絶句した。
だがしばらくして部屋に一旦戻ると自分の布団を引きずって来て老人の前に差し出した。
『兄ちゃんこれ君のやろ?』
『はい。でも困ってるみたいやし…』
『いや…悪いし受け取れんわ』
『でも…』
『じゃあ古新聞とか無い?』
『まさか新聞すら家無いんですか!』
『恥ずかしながら…』
老人は頭を掻いた。
この後梅垣はありったけの古新聞を老人に渡すと老人は部屋へと帰って行ったのであった。
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