『胎動』

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臨海研究学園都市『四門』  午後五時四十二分 学園区『臨海第七高等学校』  遠藤久美は朝からついていなかった。今朝はかけていたはずの目覚ましが鳴らずに寝起き五分で全力疾走。駅についたら定期の期限が切れていて、なけなしの小遣いから定期代を捻出する羽目に。電車に乗ったら満員電車でスカートはドアに挟まれて常に下着が丸見え状態が学校最寄の駅まで続いた。そして遅刻ぎりぎりで登校したもののお昼の食事代は定期に変わってしまったうえに、日直当番の男子には逃げられ教室のごみ捨てを一人でやる始末。普段の帰る時間を大幅に過ぎてしまった。 「あー、こんなに遅くなっちゃった。もー、飯泉、覚えてろよ」  自分を置き去りにした男子生徒に愚痴をこぼしながら帰り支度を手早く済ませる。  三年生の教室は生徒玄関の一番近い一階に存在しているので、教室を出たらすぐ自分の下駄箱がある。 下駄箱から先月買ったばかりの最新モデルのスニーカーを取り出す。最近の彼女の一番のお気に入りの靴で、この靴を買うためになけなしの小遣いを細々とためていた貯金をはたいた。渋谷の店のレジで精算する時はまさに清水の舞台から飛び降りるような覚悟だった。 靴に足を通すと、軽くつま先で数回地面を蹴り、靴をきちんと履く。 今日は夜の七時から大好きなミュージシャンが音楽番組に初出演するので早く家に帰りたく、少し急ぎながら生徒玄関の扉に手を掛ける。 するとどこからか、獣の雄たけびの様な声がビリビリとガラスを振動させた。 普段なら気にも止めないはずなのに今日は朝からついていない。彼女は声のした方に歩き出す。土足のまま校舎内に入り、辺りを見渡す。すると、また音の主が校舎内のガラスを揺らす。どうやら、音は体育館の方からするようだった。体育館には二階の二年生の教室の前を通り抜けて、渡り廊下を過ぎた別棟にある。よせば良いものを久美は体育館の方に足を進める。 体育館に入ると雄たけびは更にそのボリュームを増した。狼や虎とはまったく違う生き物、生き物ですらあるかどうか分からないそんな音だった。 音は体育館の更に奥、部室が並んでいる通路の突き当たりにある体育倉庫からしてくる。
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