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『グルルル……』
敷地を覆う外壁を挟んで唐突に聞こえだした唸り声は、一つ二つと数を増やし、ついには数え切れないほどになった。
鎧の男を中心とするように円を描き、ガサガサと草の中をはいずり回るように動き、次第に男との間合いを詰めていく。
やがて声達の動きは鎧の男から約10mの距離でぴたりと止まった。
殺気を発しつつ四方から男を見据える何対もの眼を、男はそこで初めてそれらの存在に気付いたかのように、恐怖や不安を一切感じさせない緩慢な動きでぐるりと見回す。
張り詰めた緊張。
それを破ったのは、いまだ草の中に隠れ、姿を見せない声の主の一匹だった。
身をかがめた体勢から一気に跳躍、鎧の男めがけて飛びかかった。
月光に照らされ、その外見が露わになる。
大きく裂けた口から覗く鋭い牙、鋭い眼光、どんな音も聞き逃さないぴんと立った二つの耳。たくましい四肢のそれぞれには獲物を切り裂くための爪があり、尾も含めた全身を灰色をした針金のような体毛で覆われている。
集団で獲物を狩るイヌ科の猛獣、狼だ。
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