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音楽室には、真剣にピアノに向かっている獄寺君の姿があった。
「獄寺君、補習終わったよ」
獄寺君は演奏に夢中で俺が来たことに気付いてないみたいだった。
いつもならこんなことないのに・・・。
俺はピアノに映るように獄寺君の後ろに回って、もう一度声をかける。
「獄寺君?」
「十・・・十代目。補習終わったんすか?じゃあ帰りましょう」
獄寺君はあわててピアノの鍵盤から指を放して俺を見つめる。
そう言えば獄寺君の手って指が長くて綺麗だよね。
でも、ダイナマイトを扱うせいで火傷が多いのが少しもったいないな。
-そんなこと考えている場合じゃなかった。
「待って!・・・ねぇ、獄寺君?さっき弾いてた曲弾いてくれる?」
「はい。俺なんかの演奏でいいんですか?」
「獄寺君の演奏だから聞きたいんだ」
獄寺君はもう一度鍵盤に指を置く。
そして、一度深呼吸をするとさっき弾いていた曲を弾きはじめる。
さっきと同じでやさしくて綺麗な音なんだけど、近くで聞いてるから獄寺君のしている指輪と鍵盤があたる音が混ざってるのがわかる。
「この曲の題名って何?」
ピアノを弾いているときに聞くのは失礼だと思ったけど、あまりに綺麗でつい口に出してしまった。
「この曲は賛美歌で小さい羊という題です。俺の母親が俺のピアノを聞いて教えてくれた曲なんですが・・・」
賛美歌か・・・。
獄寺君もイタリアに住んでたからキリスト教の信者だったのかな?
でも、どうしてそれを知ってたんだろう?
「そうなんだ。・・・ピアノを弾いてくれてありがとう。もう遅いし、帰ろうよ」
「わかりました。でも、少し待っててください。ピアノの片付けがあるので・・・。」
獄寺君がピアノを片付けている間、頭の中をピアノのやさしい音が鳴り響いていた。
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