108人が本棚に入れています
本棚に追加
「本人も、知っています。…このことは我が国のこと」
だから何も言うな、と王は言外に含ませます。
一介の王子が国政に、ましてや他国のことに口を出す権利などありません。
王子は黙って頭を下げ、部屋を出て行きました。
最後に、エレーヌの肖像画を愛おしそうに、そして切なそうにみつめる王子の瞳が、とても印象的でした。
王は何とも言えない心持ちで、そんな王子を見送り、別々に並ぶ双子の肖像画を眺めました。
「あなた…」
「…なぁ、王妃。私はとても酷いことをしてはいないだろうか?」
そっと声をかける王妃に、王は肖像画を見つめたまま問いかけました。
「…いいえ。王子はまだ若く、賢い方ですわ。あなたの言葉も、いずれ理解して下さいますわ」
王妃は優しく微笑んで、王の背中にそっと寄り添いました。
翌朝、お昼前の比較的早い時間に、王子が現れました。
「何のご用ですか?」
「お前が『月の乙女』と呼ばれる由来を聞いた」
笑みのない、固く冷たい表情のエレーヌに、王子は少しきつい口調で言いました。
「ならば、あなたと結婚出来ない理由もおわかりになったはず」
「だが、お前の本心を聞いていない」
「…私が嫌々『月の乙女』の立場でいると? 同情ですか?」
エレーヌの表情は強張っていました。
「違う。…いや、違わぬかもしれん。だが、同情心よりも、理不尽な思いでいっぱいだ。何故、お前でなければならない?」
「…双子の片割れ、だからでしょう」
「お前は、それで良いのか?」
「良いも何も…」
そう言うと、エレーヌは微笑みました。
静かなその笑みは穏やかで、どこか清々しくもありました。
「そもそも、あなたは誤解しています。私は、むしろほっとしているのですから」
「…何故だ」
「私は『月の乙女』でなくても、もともとあなたと結婚する資格などないのです」
「……どういうことだ」
王子の追求を逃れるかのように立ち上がり、エレーヌは窓辺に向かいました。
最初のコメントを投稿しよう!