月の乙女

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「本人も、知っています。…このことは我が国のこと」  だから何も言うな、と王は言外に含ませます。  一介の王子が国政に、ましてや他国のことに口を出す権利などありません。  王子は黙って頭を下げ、部屋を出て行きました。  最後に、エレーヌの肖像画を愛おしそうに、そして切なそうにみつめる王子の瞳が、とても印象的でした。  王は何とも言えない心持ちで、そんな王子を見送り、別々に並ぶ双子の肖像画を眺めました。 「あなた…」 「…なぁ、王妃。私はとても酷いことをしてはいないだろうか?」  そっと声をかける王妃に、王は肖像画を見つめたまま問いかけました。 「…いいえ。王子はまだ若く、賢い方ですわ。あなたの言葉も、いずれ理解して下さいますわ」  王妃は優しく微笑んで、王の背中にそっと寄り添いました。  翌朝、お昼前の比較的早い時間に、王子が現れました。 「何のご用ですか?」 「お前が『月の乙女』と呼ばれる由来を聞いた」  笑みのない、固く冷たい表情のエレーヌに、王子は少しきつい口調で言いました。 「ならば、あなたと結婚出来ない理由もおわかりになったはず」 「だが、お前の本心を聞いていない」 「…私が嫌々『月の乙女』の立場でいると? 同情ですか?」  エレーヌの表情は強張っていました。 「違う。…いや、違わぬかもしれん。だが、同情心よりも、理不尽な思いでいっぱいだ。何故、お前でなければならない?」 「…双子の片割れ、だからでしょう」 「お前は、それで良いのか?」 「良いも何も…」  そう言うと、エレーヌは微笑みました。  静かなその笑みは穏やかで、どこか清々しくもありました。 「そもそも、あなたは誤解しています。私は、むしろほっとしているのですから」 「…何故だ」 「私は『月の乙女』でなくても、もともとあなたと結婚する資格などないのです」 「……どういうことだ」  王子の追求を逃れるかのように立ち上がり、エレーヌは窓辺に向かいました。
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