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「…私は……」
エレーヌは王子に背を向けたまま、静かに語ります。
「私は…、子の産めぬ体。あなたは次期の王になることを約束された方…。その方の元へ嫁ぐということは、即ち王妃になるということも同じ。…けれども、子の産めない王妃がどれほど大変か、ご存知でしょう?」
「……」
王子は何も言えませんでした。
「それに…。結果として子供に恵まれなかったというのならまだしも、初めから子供が産めないとわかっていたら、反対されるのではありませんか?」
「それは…」
口ごもる王子に、エレーヌは静かに続けます。
「…責めているのでは、ありません。私が逆の立場でも、反対すると思います。…あなたが、もし王家の方でなかったら…。話が違ったかもしれませんね」
「…エレーヌ……」
「嘘です。…本気にしないで下さい」
「……」
「この際ですから、正直に申し上げますが…。私、今まで殿方に愛されたいと思ったことがないのです」
「…何?」
「……」
聞き返す王子に答えず、エレーヌは窓辺を離れました。
王子の前を過ぎ、反対側の壁へ向かいます。
そして、壁に掛けられている、交差する二本の剣を取りました。
何をするつもりなのかと様子をうかがっていると、エレーヌはその一本を王子に手渡し、いきなり斬りつけました。
キンッ
間一髪。王子はエレーヌの剣を跳ね返し、すかさず距離を取りました。
けれどもエレーヌはすぐに詰め寄り、次々と剣を繰り出します。
王子は防戦一方でした。
不意を付かれたこともありますが、とても女性とは思えぬ技量と重みのある剣です。
「やあっ」
気合いと共に振り下ろされる剣は、受け止めるのがやっとです。
エレーヌを傷つける訳にはいかないと思っている分、王子に不利な展開になりました。
それでも、王子は攻撃に転じることなく、エレーヌの剣を止める手立てがないか、考えます。
ガキッ キンッ
何度目かの剣撃を防いだのも束の間、とうとう王子の剣は跳ね飛ばされてしまいました。
「…自分よりも弱い方に興味がわかないのも、道理だと思いませんか?」
剣先を王子の胸元に突きつけ、エレーヌは言いました。
そこには、何の感情も映されていませんでした。
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