差し出された手を

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「…からかってやるつもりで招待したパーティーで着飾ったお前を見て、心が動いた。だが、あの花畑で会った時から、お前しか見えていなかったのだと思う」  言葉の合間に、王子は何度も口付けます。 「私も…、あなたのキスを本気で嫌だと思ったことはない気がします。きっと…、あなたの強引さに…いつか負けてしまうと、わかっていたのかもしれませんね」  エレーヌの口唇から、甘い吐息が漏れました。  それに誘われるかのように、王子はさらに口付け、甘い一時を過ごしました。 「…戻るのは気が重いな」  エレーヌを後ろから抱きしめ、その方に顎を乗せて王子は言いました。  そんな、どこか甘えた仕草を見せる王子に、エレーヌはくすりと笑います。 「父ときちんと話をしてください────私を妻に、と望むのであれば」 「それを言われると、戻らぬわけにはいかないな」  王子も小さく笑いました。 「しかし、ひどい有り様だ」  乱れてしまった服や髪を取り繕うとするエレーヌに王子が言いました。 「…誰のせいです?」 「俺だな」  エレーヌに睨まれても、王子は嬉しそうに答えます。 「…紅が」  エレーヌが言うと、王子は慌てもせずに、袖口で口元を拭いました。  白いシャツに赤い染みができましたが、王子は気にすることなく手を差し出しました。  微苦笑を浮かべて、エレーヌはその手を取りました。 「王が許すと思うか?」 「さあ、どうでしょう?」  エレーヌがそう他人事のように言うのを、王子はじっとみつめます。  視線に気付いて顔を上げると、王子がふっと笑いました。 「まぁ、いい。いざとなったら、攫って行けば良いことだ」 「それは困ります。国に戻れなくなりますから」  笑みを浮かべて答えるエレーヌに、王子は掠め取るようなキスをしました。  驚いて王子を見るエレーヌに、笑って続けます。 「そうか。ならば一緒に説得するんだな。でなければ攫って行く、その方が簡単だ」 「ずいぶん乱暴ですね」 「実力行使と言ってくれ」 「便利な言葉ですね」  言葉は辛辣でしたが、その口元に浮かぶ笑みは、優しいものでした。  ────こうして、エレーヌは王子へと戻る道を、一歩踏み出したのでした。            END

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