100人の女と1匹の猫

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    …………………。     嫌な物を見た。 人通りの多いこの道で、完全に立ち止まってしまった。 もう後には引けない。 俺はため息混じりに喋りかけた。     「…どうした?」     普通なら絶対に相手にしたりはしない。 しかし、誰かしら人が見ているとなれば話は別だ。 俺のいい人というイメージを崩してはならないのだから。     「そんなトコおったら寒いやろ」     俺はこれまで善人の皮を被って生きてきた。 友達を騙し、女を騙し、家族にまで俺は良い人間と思われていた。 俺の周りにいる連中は、俺に対する認識を完全に見誤っている。   まぁ一部を除いてだが…。     「主人に見放されたんやな。可愛いとぃ、全くヒドいな」     ヘドが出る。 心に微塵(みじん)も思ってない事をよくもこうサラサラ言えた物だ。 作り上げられた自分自身に酔いつぶれるのが快感なんだろう。   だいたい俺は猫って動物は好きじゃない。 犬ならまだ良いが、猫はどうしても好きになれないのだ。 愛想がなく素っ気ない感じが気に入らなかった。 俺と知り合った人間は、皆俺に興味を持たなければ許せない。 そんな考えを持っていたからだろう。   俺はとりあえず捨て猫を拾い上げ、人通りの少ない所まで連れていく事にした。  
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