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歩いている途中、猫は俺の腕の中で寝ていた。
邪魔くさくて仕方がなかったが、まだ人のいるこの場所で捨てる訳にはいかない。
それから5分ほど歩いた。
よし…ここなら大丈夫だろう。
表の道とは打って変わって、人通りの全く無い路地裏に来た。
まさに表と裏と言った感じだ。
ここは、バブル全盛期にディスコやバーが盛んだった通りなのだが、バブルが弾けると同時にそのほとんどがが閉鎖したという話だ。
まぁよくある話だが。
そして最近になると、少し前まで薬物の密売などに使われていた。
しかしこの場所で1組の密売集団が捕まってからは、地元のヤンチャな奴等がよくたむろしている様だ。
見渡す限りでは人はいない。
俺は連れて来た猫を、ビルとビルの狭い隙間に投げ入れた。
猫は地面に叩きつけられ、弱々しい悲鳴をあげた。
「まぁせいぜい頑張って生きれや」
さ、帰ろう。あ~究極にだりぃ。
しかし、帰ろうと振り返った時だ。
そこには見覚えのある女が立っていた。
「こぉた何やってんの~?」
げっ、何でこいつがいるんだよ。
マジ勘弁してくれって。
「ねぇ何やってんのって!」
「いや…別に何もしよらん」
丁度その時、捨てた猫が俺の足元にすり寄ってきた。
「うわっ!猫やぁん!こぉた猫飼ってんの?」
うぜぇ…
「いや…まぁ、あんま見られたくなったっちゃけど…。ここに捨てられとったけん拾ってやろぉと思って」
出た口八丁。
嘘つきが本当に泥棒の始まりなら、俺は今頃ルパンを超える大泥棒になっているだろう。
「まじ可愛いやん!ってか相変わらずこぉた優しいねぇ」
俺の周りにいる奴は皆、俺の事を優しいと思い込んでいる。
こんな腐りきった人間を。
全く頭の悪い連中ばかりだ。
だが俺のこの下らない妄想ももう時期終わる。
もっともこの時の俺はまだ気付いてはいなかったが…。
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