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薄暗い部屋…
案内され、彼は座る。
かむろが、火鉢の火を確かめに行く。
「今日は…冷え込みますなぁ」
声をかけると、そうだね、と返ってくる声。
彼は、視線をあわせようとせず、横顔のままだ。
睫毛が長い…
近くで見ると、女子のような白い肌をしていた。
瞳は、澄んだようにきれいだ。
「何か、飲みなさるかぇ」
「じゃあ…白湯を」
ぶっ、と、吹き出してしまう。
「ふっ…くっくっく」
彼は不思議そうな目付きで、私の顔をやっと覗き込んだ。
「遊廓で白湯頼んだの…兄さんだけだと…思います」
「あっ…す、すまない」
「やっと、わっちの顔、見てくれましたねぇ」
くすくすと笑ってしまう。
「こういうとこは、初めてなもので…失礼しました」
真剣に応えられるからまたそれが笑いを誘う。
こんなに、普通の会話を男とするのは…ひどく久しぶりだ。
いつも、何か目的があって…
何か、というのはもちろん、このくだらない仕事を早く終わらすための煽り文句なのだが。
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