狼と向日葵(後編)【おおかみとひまわりこうへん】

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私は、泣いた。 人目もはばからず、泣いた。 優しく、ねえさんが私の肩を撫でてくれた。 ふいに、胃液が込み上げてきて、そのまま私は吐く。 「ひまわりちゃん…」 いつから吐いているか、彼女は私に問う。 7日前位からだろうか。 「ひまわりちゃん、もしかして…」 瞬間、頭が真っ白になる。 ややが出来たのでは…と言う、ねえさんの声。 ……ああ、そうか。 紛れもない、私の子だ。 相手は、分からない。 分かるはずもない。 でも… 狼の子であると、思うのは私の勝手だろうか。 『死んではいけませんよ』 『生きろ』 二人の声が、頭の中でこだまする。 …私は、生きよう。 この子のために。 あなた達二人のために。 そして……私のために。 命の灯は小さくとも その輝きは、すさまじく… 私に、生きる力を十分に与えてくれる。 わが子よ 時代が変わり、 あなたの父が信じていたものが、古いと言われるようになっても 私だけは、あなたに伝えたい 命をかけて、人を信じること 人を愛することの、大切さを… 春風は心地よく私達に桜の匂いを運び、日差しはぽかぽかと暖かい。 河原を歩く。 遠い遠い昔を思い出していた。 ほけきょ、と鳴くうぐいすの声。 「おかん、うぐいすや!」 私は微笑むと、愛しい我が子を抱きしめた。 澄んだ青空… 彼らの着ていただんだら模様の羽織を… 思い出して、涙が、溢れた。 生きています。 私は生きていますと、心の中で呟いた… 狼と向日葵 後編 完
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