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「清太郎…」
気が付くと、名前をつぶやいていた。
「きよい、という字です」
彼は空中に人指し指をかざして、なにやら書いている。
「清太郎さん…わっち、字が読めないし、書けません」
彼は、あっ、と小さく声を漏らすと、少し考えてから
「筆と紙をもらうことはできますか」
と静かに言った。
障子の向こうに控えているかむろに声をかける。
「私…自分の名前が好きなんですよ」
と彼はぽつりと言った。
少し緊張がとれたのかな、と思う。表情がやわらかくなっていた。
かむろが筆と紙を持ってくる。
彼は受け取ると、さらさらと字を書いていく。
私には字を認識することはできないが、とても素敵に見えた。
「水が…流れているような…字…」
「でしょう」
彼はにこりと笑う。
心が…洗われていく…
どうしてそんな表情ができるのか…
その顔を見ると、自分がひどく汚れているような、そんな気持ちになってしまう。
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