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「清太郎…さん」
「清、でいいです」
「きっと、あなたはいろんなものを見て…暮らしてきたんでしょうねぇ」
彼は私の顔を真っすぐと見る。
なんとなく、目を、そらしてしまう。
「いろんなものとは?」
「わっちも、普通の女子として…暮らしてみたかった」
「青葉…」
「こんなこと、清さんに言ってもしょうがないけど」
笑ったつもりだったが、きっと情けない顔をしてしまっただろう。
「青葉、私は」
真剣な表情で彼は言う。
「…人の幸せや不幸せは、他人が決めるものではないと教えられました。自分自身の、心の有り様だと」
「………」
胸が痛む。
「私のことばではないです、さっきいた、私の叔父のことばですが」
彼の顔はきらきらと輝いていて、私はまともに見ることができない。
この部屋に入ってきたときとは、状況が逆転してしまった。
「清さんと話していると、わっちは…ひどく自分が汚れているように思ってしまう…」
指で畳をなぞりながら、やっとのことでことばを絞りだした。
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